【U氏】
この人に出会わなかったら、サウンドデザインを考えることも無かったかもしれない。
まだ私がメーカーに居て、そのメーカーの防音室の設計に携わっていた時の話しです。
30年前だったか?
今や無くなってしまったが”フェリオ”という、カラオケとホームシアターと音響設備とピアノの音楽室を組み合わせた仕事が来た。
当時、”オーディオビジュアル・コーディネーター”なる肩書の私が、途中参加でチームに合流した。
現在は、残念ながら経営不振で潰れてしまったが、当時珍しかったDSPとDSRを駆使し、ミキサーと組み合わせカラオケ機器を接合し、更にSSPなる設備も導入し室内音響もコントロールするなど、当時としは画期的な仕事をさせてもらった。
※なんで私に白羽の矢が立ったかというと、オーディオビジュアルと防音に多少明るく、少し変な人物が当時の私だったからと思う。
電気にも建築にも今ほど詳しくなかった時代の話しでございます。
出会い
酒飲みで社交家のU氏(ええ格好しぃ)が、音響の調整に来ていた私とフェリオで偶然出会い、名刺交換を施した。
「自宅に遊びにおいで~」との甘言でU氏宅におじゃまする。
※一見良い人だった。
U氏はヴァイオリニストで音大講師、ソロコンサートもするヴァイオリニストで音楽家としてはそこそこの人だった。
自宅のレッスン室でヴァイオリンを弾くU氏。
「気に入ってないんやわ、この部屋。」
「もっと宝石の転がるような音が欲しいんよ。」
宝石が転がるような音???*?
それは一体なんなのだ?
U氏は嫌なヤツだった。
自分の都合最優先だった。
なにしろ、私の予定が入っているにもかかわらず、「この日、この時間に来い!」などと平気でいう輩だった。
おそらくU氏は誤解されやすい人だったと今では思う。
音楽に純粋な人だったのではないか?
音楽に純粋なあまり、他の常識面が欠如していたと思われる。
フェリオの音が気に入られたのである。
その音を自宅で再現してほしかったのである。
無理だ。
20帖以上あったフェリオと、6帖で物だらけのU氏の部屋と同じに出来る訳がない。
私 「無理です。」
U氏怒る。
「〇〇に勤めていて防音を専門やのに出来へんのかっ!大したことないのー!!」
ものすごく失礼な物言いである。
30代半ばの私は若すぎた。
怒りを隠せず、「何とかしますわー」
思えば、男の頭の中は18歳から進歩していない。
おそらく男は永遠にアホである。
一応、世間では分別のある大人同士にもかかわらず、U氏とはまるで子供みたいな口喧嘩をしてしまった。
その後も時間の関係なく何度も何度もU氏の家を訪れる。
何度も工事を繰りかえす。
(今の私には難しい。バックに会社があったから出来た。)
結局わかった事は、音の減衰の処理だった。
なんとなくわかった。
今から思えば簡単な事だった。
雑然としたU氏の部屋を片付けて、少し音響処理をしただけで解決したのである。
全ての仕事が終了したあとワインで乾杯し、私の両手を握りしめ「ありがとう!」と、U氏から言われた。
U氏には鍛えられたのである。
とことん鍛えられた。
回想
今では決して出来ないが、一応の工事が終わった後も何度も電話があった。
当時携帯電話は普及しておらず、会社の電話が鳴るたびに身がすくんだ。
ひどい時は1日に数回である。
本当にどうして良いか分からなかった。
事態を重くみた本社からもサポートがあり同行を繰り返すが、U氏の満足が得られない。
普通の人なら妥協するところをU氏はあきらめない。
私といえばまわりも既にさじを投げ、会社からも”もう放っとけ”である。
U氏の恐ろしいところは、私の自宅を突き止め自宅に電話をしてきた事である。
私は怒りを爆発させ、好きな事を言い放題で語る。
(これも許される事ではない。)
数分後、嗚咽混じりに「助けてほしい。」とのU氏の言葉。
既に工事が終わり引き渡しも終わっていた。
”音楽にひたすら純粋すぎて、他の常識が欠如してしまった人”と、少しだけU氏の事を理解した。
ルドルフ・シェンカーは曰く、怒った事がないそうである。
その人の事を分かろうと思い、話していけば友達になれるらしい。
私はそこまで人間が出来ていない。
単純である。
すぐに感情的になる。
音響作り
少しだけ利益があれば仕事しようかと思う。
今は興味がありすぎて、お客様の音に対する希望を聞きたいのです。
「普通の音にして下さい。」とおっしゃったピアノのお客様。
普通の音ってなんなんだ?
東京スタッフの加藤は一緒に音を作ったにもかかわらず、Cスタジオの音響に不満をもらす。
ピアノの位置を変えただけで、「あー、バッチリです。」
ん?
大げさだが、勤め人のころ命を削る思いで施したサウンドデザインのN様。
(有名なコンクールで賞を得た。今でも懇意にさせて頂いている。)
※命を削るとか命をかけるなどと仕事で言ってはいけない。軽すぎる。
重い言葉を使ってはいけない。
⇒しかしながら徹夜を繰り返した時は、『ひょっとしたら命を削るってこれかな?』と思った。
話し合うしかない。
人の心の中は分からない。
音は持って行く事が出来ない。
体験に来て頂き感想を聞き、音を考えるしかない。
音響作りの基本は話し合いです。
体験です。
そこから、お客様のほしい音を考えるしか無いと思います。
音響作りは私とチームカタヤマ、そしてお客様との共同作業です。
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